なまずくの耐震事件簿 第1クール第1話の技術情報(吉村邸)
平面図
作中に図面と間取りが違う、という話が出てきますが吉村邸の1階は、図面と現状が3箇所違います。
壁量計算結果
新築の壁量計算を行った結果です。新築の場合は壁量計算を行い事前に耐震性が確保できているか?確認しまます。既存住宅の場合は劣化度も含めた耐震診断の結果で耐震性を判断します。下記表は、建築基準法で求められる壁量計算のうち、地震に絞って検討した表で、1.0以上だと基準法を満たしていることになります。
壁量計算(地震力のみ) | ||
X方向(横) | Y方向(縦) | |
<図面の壁配置> | ||
2階 | 1.02 | 0.95 |
1階 | 1.30 | 1.00 |
<現状の壁配置> | ||
2階 | 1.02 | 0.95 |
1階 | 1.30 | 0.50 |
診断に先立ち簡単に計算してみました。図面上は2階Y方向が若干足りないが、他の方向は満たしているようです。この建物は新耐震ですが、設計者が壁量計算を行っておりません。このような建物は新耐震でも数多くあります。
現状の壁配置では、2階は同じですが、1階は3箇所筋かいがないので、大幅に下がっています。基準の半分しか壁がないことになります。診断を行うまでもなく非常に耐震性が低い建物ということが推定できるでしょう。
耐震診断結果
現状の診断結果と、図面上の診断結果を比較しましょう。現状のほうが耐震性がかなり低いことがわかります。吉村さんががっくりするのが目に見えるようです。
耐震診断 | ||
X方向(横) | Y方向(縦) | |
<図面の壁配置> | ||
2階 | 1.535 | 1.470 |
1階 | 1.009 | 0.647 |
<現状の壁配置> | ||
2階 | 0.714 | 0.656 |
1階 | 0.616 | 0.184 |
壁量計算の結果から、ほぼ基準法通りと思われた図面の壁配置でしたが、耐震診断にかけると結果は変わってきます。2階はかなり余裕があるのに対し、1階X方向はやや余裕があり、Y方向は思いっきり不足しています。これは、木造耐震診断の2階はかなり評点が出やすいこともあるのですが、
1:耐震診断では筋かい金物や柱頭柱脚の金物(ざっくり言えば金物)の有無で評点が大幅に変わってくるのに対し、壁量計算では「金物がついていることが当たり前」で金物の有無を判断できないことです。耐震診断に比べて壁量計算の歴史は深く、その間に改訂改良されていますが、昭和56年の改訂からは壁量に関しては何も変わっていません。そのため診断結果と大幅に変わってきます。なので昭和56年以降で壁量計算があるからといって安全とは限りません!!というのも、金物の法令告示が整備されたのは平成12年だからです。なので建設当時安全でも上記のようなことが普通に発生してくるのです。実際熊本の地震でも金物不足で倒壊した昭和56年以降の建物が多く確認されています。
2:木造住宅で耐震性を判断する指標は、壁量や金物の有無だけではありません。建物のバランスという要素もあります。これは阪神淡路大震災で、バランスの悪い建物が壊れやすかった事により、建物のバランスが重要視されてきましたが、法令で規定ができたのは、金物と同じで平成12年なのです。耐震診断はバランスが悪いと評点が下がりますが、壁量計算はそのようには出来ていません(別な規定があります)。そのため壁量計算とは異なった傾向がでてきます。特に1階Y方向はその傾向がはっきり出てきます。
3:壁量計算と耐震診断の違いは、他にもいろいろあるのですが、壁量計算は新築用ということで、これから末永くその耐震性を維持しなければならないため、法令告示で定められた物しか、計算二加えられませんが、耐震診断は、ある程度年月が経った建物を対象としているため、現時点で加算できる耐震要素はできるだけ加えよう、というルールがあるので、その部分も変わってきます。そのため壁量計算では加算されない雑壁である石膏ボードや外壁モルタルなども加算できます。そのため劣化度などという指標もあり、新築とのバランスも取っています。そのため新築時で診断を行うと、耐震診断のほうが評点が大幅に高い!というケースが多く見られます。
振動アニメーション結果
マンガで出てきた吉村邸の補強前補強後を、wallstatという振動アニメーションソフトで揺れ方を比較してみます。耐震性が低い方が揺れるので壊れやすくなります。
2018年8月3日公開
2018年8月13日更新(壁量計算結果掲載)